DXとは どこよりも丁寧な徹底解説
2024年06月24日更新
コンサルの業界研究を進めていくと、DX、IoT、ERPなどの用語が出てきますが、これらの用語について十分に理解していない方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、本シリーズでは、コンサル業界への転職を希望されている方向けに頻出用語を解説していきます。
今回は「DX」について説明いたします。DXはどの企業も積極的に取り組んでいるテーマとなります。みなさんも、様々なところで耳にするのではないでしょうか。しかしながら、DXとは具体的に何なのか、十分に理解できていないという方も多いのではないでしょうか。そのような方に向けて、具体的な事例も交えて分かりやすく説明していきたいと思います。
目次
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監修者
門山 友輔
Kadoyama Yusuke
システムベンダーで経験を積んだのち、大手転職エージェントであるパソナにてIT/コンサル業界向けの転職支援に従事。半期MVP6回、年間MVP受賞、全社売上レコード更新などの実績を有する。
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DXとは?
DXとは、「デジタルトランスフォーメーション」の略で、「デジタル技術により、社会や生活の形・スタイル、ビジネスモデルを変えること」を指します。
ビジネスの現場では「デジタル技術の活用によって企業のビジネスモデルを変革し、新たなデジタル時代にも十分に勝ち残れるように自社の競争力を高めていくこと」という意味合いで使われます。
DX化とIT化の違い
DX化とIT化は、しばしば混同して使われることが多いですが、異なる点が多々あります。一般的にIT化とは「既存の業務プロセスは維持したまま、その業務の効率化・強化を図るためにデジタル技術やIT・データ活用を導入すること」を指します。例えば、電話や手紙であった連絡手段が、メールやチャットツールなどに置き換わったのはその典型です。連絡の是非自体は問われることなく、ツールを導入することで効率化が図られたことになります。一方で、DXは「デジタル技術を用いてビジネスモデルや生活スタイルを革新させること」を指すため、既存の業務の延長ではなくさらにその先の変革を目的としております。このことから、DXは変革そのものを目的とし、その変革を実現する手段の一つにIT化が含まれるという位置づけになります。
DX化とデジタル化の違い
DX化とデジタル化も似て非なるものです。デジタル化はあくまで特定の業務プロセスやモノにおける情報をデジタル形式に置き換えることを指します。例えば、これまで個人商店が紙で帳簿管理していたところへ、会計ソフトが導入されれば紙の情報がデジタル形式に置き換わるため、「デジタル化した」と言えます。一方、DXは組織・風土・ビジネスモデルを変革させることを指しているため、対象が企業全体となります。範囲が局所的か全体的かという観点から、DX化とデジタル化では大きく違うと言えるでしょう。
なぜDXが必要とされているのか?
日本では、経済産業省が2018年に発表した、通称「DXレポート」(後述)をきっかけに、DXという言葉が浸透していきました。現在日本では、国策として、日本企業が抱えるIT人材やシステム基盤に関する問題を提起し、企業各社へDXを推進していくことを訴えかけています。その国策の影響もあり、現在では企業各社もDX推進に積極的に取り組むようになりました。本節では、DXが必要とされる理由を解説します。
理由①:企業の競争力を高め、生き残る
世界中でデジタル化が進み、インターネットを介しさまざまなサービスをユーザの自宅や端末へ届けることが可能になりました。GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)を筆頭に多くの外資系企業が日本の事業へ参入、さらに、デジタル技術を活用し資産を持たずに事業を展開するUberやAirbnbなどのスタートアップ企業も生まれるなど、市場状況は大きく変化しています。 また、それに伴い、ユーザの消費動向やニーズも多様化・複雑化しています。このような状況において日本の既存企業が生き残るためには、従来のマーケティング方法を変え、顧客のニーズを満たしたサービスを提供し、競争力を高めていくことが必要です。DXを導入しマーケティング業務そのものをアップデートすることで、マーケティング過程の効率化を図り、多様化する顧客のニーズをすばやく掴むことが容易になるでしょう。またサービスの改善や新たなサービスの創出など、市場での競争力を高めることが可能になります。
理由②:生産性の向上とコストの削減
少子化や高齢化で働き手が少なくなり、また、ワークライフバランスも叫ばれる中ではDX推進の潮流は必然です。デジタルツールの活用で情報・データの共有を円滑に行えるようになれば、業務効率は向上し、作業時間の短縮や長時間労働の是正につながります。リソースにも余裕ができることから、注力したい業務へこれまで以上の時間とリソースを割くことが可能になり、生産性の向上も望めます。
理由③:ニューノーマルな働き方への対応
昨今の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は、日常生活や仕事のスタイルにも大きな変化を与えました。テレワークやリモートワークで、在宅で勤務をする機会が急激に増え、オンラインでの営業や面接、打ち合わせも日常となりつつあります。DXをすでに進めている企業の中には、社員の出社がなくなり交通費の支給が不要になっただけでなく、オフィスを持つ必要さえなくなり、大きなコストダウンを実現させたケースも見られます。
このようなニューノーマル時代には、これまでと大きく異なる市場が生まれる可能性も考えられます。これを契機ととらえDXをうまく取り入れることが、企業が生き抜くために必須であるといえるでしょう。
理由④:レガシーシステム問題(2025年の崖問題)
レガシーシステムとは、新しい技術の普及に伴い、時代遅れとなったひと世代以上前のシステムのことです。導入時からかなりの年月が経過したことによる技術面での老朽化、継ぎ足しを繰り返すことでのシステムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化した既存システムを指します。現在、日本企業の多くのITシステムがこの問題を抱えており、また簡単にシステム刷新することもできず、新たなデジタル技術を活用したビジネスモデルの創出や柔軟な変革へ踏み出すための足かせとなっています。 さらに2025年頃には定年による技術者たちの退職が相次ぎ、現ITシステムを使いこなせる人材不足に拍車がかかることが予測されます。その影響により、サイバーセキュリティやシステムトラブルによるデータの滅失など、リスクが高まることも懸念されています。 このような日本企業が抱える問題はDXレポートの中で「2025年の崖」と称され、その問題解決のためにDX推進とレガシーシステムからの脱却が促されています。
日常生活におけるDXの具体例
DXの具体的には一体どのようなものなのでしょうか。分かりやすいDX事例を集めましたのでご紹介いたします。普段利用している「あのサービス」も、DXの成功事例の1つかもしれません。
身近な例①:モバイルオーダー
モバイルオーダーとは、主に飲食店などで導入が進んでいる「遠隔注文サービス」のことを指します。有名な例として、マクドナルドの「マクドナルドモバイルオーダー」や、スターバックスの「Mobile Order & Pay」などが挙げられます。モバイルオーダーは文字通り、スマートフォンなどのモバイル端末から遠隔で商品の注文を行えるように設計された機能で、専用アプリもしくはWEBブラウザから利用することができます。 モバイルオーダーのメリットとして①非接触型の注文方法であること、②レジ前の渋滞の緩和、③キャンペーンの効果的な配信、④顧客データの収集、などが挙げられます。ユーザーはモバイルオーダーを利用することで、コロナ禍における感染症予防対策の1つとしてもメリットを享受できます。また店舗側は、ユーザーのレジ注文の機会が減少するため、従来であればレジ業務を担当していた人員を「商品調理」や「接客業務」など他の業務へと充てることが可能となります。こうしたメリットを持つモバイルオーダーは「コロナ禍における顧客への新しい価値提供と、従業員の負担を軽減する」という一石二鳥の結果を生んでいます。
身近な例②:セルフレジ
一部の地域ではコロナ禍における非対面販売のニーズに応えるため、購入者自身がレジ作業を行う「セルフレジ」(無人レジ)の導入が進んでいます。セルフレジは主に企業内売店やコンビニエンスストアなどで導入が進められ、有人販売では難しかった24時間営業を実現するなど、利用者のニーズに応えるDX事例となりました。実際、心幸ホールディングス株式会社が、現在社内売店がある工場に勤めている方109名を対象に「社内売店に関するアンケート調査」を行った結果では、35.3%が「営業時間が短い」と回答しています。 これまではレジ業務を有人で対応していたために、深夜の営業が難しい企業内売店・コンビニエンスストアでも、セルフレジの導入により、深夜時間帯でも営業を続けることができるようになります。そのため、深夜帯を利用するユーザーへのアプローチも実現可能となり、営業利益の向上が期待できます。加えて、昼間の有人対応時間帯でもセルフレジは稼働できるため、コンビニスタッフの人員不足や人件費削減の課題への対処方法の1つとしても注目されています。
身近な例③:フードデリバリーサービス
都市部や人口の多い地域をサービスエリアとして展開しているのが「フードデリバリーサービス」です。文字通り、店舗で調理した商品を配達員がユーザー宅へ届けるサービスとなります。この配達サービス自体は「出前」と言われ古くから親しまれていますが、フードデリバリーサービスが出前と異なる点として「規模」と「即時性」、「デジタル端末を使った注文・管理」が挙げられます。 「出前」の注文方法といえば電話やFAXが知られていますが、フードデリバリーサービスの注文方法は「専用アプリ」もしくは「WEBブラウザ」となります。ユーザーは特定の店舗を予め決めて商品を閲覧するのではなく、フードデリバリープラットフォームにラインナップされている店舗・商品を閲覧し、その後に好みの商品を注文することができます。またデジタル化された注文プラットフォームを利用するため、専用アプリまたはWEBブラウザ上で決済処理を完了することが可能です。この商品注文における自由度の高さや規模、決済完了から商品受取までのスムーズなプロセスなどが新しい顧客体験(DX)といえるでしょう。代表的なフードデリバリーサービスには「Uber Eats」「出前館」「Walt」があります。
身近な例④:配車サービス
タクシーや専用車を専用アプリを使って指定した時間に配車できるサービスも身近なDX事例の1つといえます。これまでの配車サービスといえば、最寄りのタクシー会社に電話し、口頭で配車希望時間と住所を伝えていました。しかし、慣れない土地でのタクシー配車や、住所の分からない場所・状況での配車は難しく、また「急いでいる時にタクシーが捕まらない」といったデメリットも多く発生していたのが実情と言えるでしょう。 専用アプリを使った配車サービスは専用アプリで時間指定できるだけでなく*、位置情報を頼りにした配車場所設定、自動支払機能、流しで走行中のタクシーがアプリ上で確認できる機能*など、従来の配車サービスのデメリットを払拭する形で日々改良が進められています。配車サービスは次世代の交通「MaaS(Mobility as a Service)」としても広く認知され始めており、代表的なサービスにはタクシー配車アプリの「GO」や「DiDi」、「S.RIDE」があります。
身近な例⑤:AI家電
Alexa(アレクサ)の愛称で親しまれる「スマートスピーカー」なども、身近なDX事例の1つと言えます。従来のスピーカーは、ボタンを押して音楽を再生したり、Bluetoothを利用して遠隔で音楽を再生したりすることがメインの機能でした。しかし、スマートスピーカーは人間の音声を聞き取って音楽を再生したり、状況や時間帯に応じて会話・楽曲の再生を行ったりすることができます。つまり従来の機器に「AI機能」が付与された存在です。 スマートスピーカーのようなAI機能が搭載されたAI家電は普及が進み、お掃除ロボット「ルンバ」を家庭に備えている方も多いでしょう。AI家電は「人間の指示なく判断し、動く」ことがポイントであり、様々な状況をトリガーとして利便性・快適性を向上させています。例えば「ルンバ」は、部屋の間取りを学習し、掃除ルートを徐々に最適化することが可能です。また専用アプリを用いて侵入禁止箇所の指定や、重点掃除箇所を指示することができます。
身近な例⑥:NFTアート
「NFTアート」の浸透も身近なDX事例の1つとなります。NFT(Non-Fungible Token)は日本語で「非代替性トークン」といい、ある作品の「作成者」や「所有者」、「取引履歴」などをブロックチェーンの技術を用いて証明することが可能です。NFTは特にデジタルアートの業界で注目を集めており、「複製が容易で作成者・所有者の証明が困難であった」という従来のデメリットを克服する形で急速に広がりを見せています。 このNFTアートの浸透は「一般の人々が手軽にアート作品を所有する」機会を創出し、新しい経済圏を形成することになりました。また所有しているNFTアートはブロックチェーンの仕組みを利用して取引することが可能であり、日本の小学生が描いたアート作品に380万円の価値がついたニュースは記憶に新しいことでしょう。現在は投機価値の高い存在として注目されているNFTアートですが、アートをより身近なものにし、デジタルデータの所有権を証明する仕組みの先駆けとして今後も浸透していくのではないでしょうか。
DX化におけるコンサルティングファームの役割
ここまで、DXについて、具体例を交えながら説明してきました。企業がDX化を推進していくにあたり、コンサルティングファームがどのような役割を担っているのでしょうか。コンサルティングファーム各社の立ち位置や、プロジェクト事例を踏まえて説明していきたいと思います。
役割①:DX戦略・新規事業立案
まず挙げられるのが、DX戦略・新規事業立案です。これは、クライアントとなる企業が有している「資産」にデジタル技術を組み合わせて、どのような新規ビジネスができるか、その戦略を立案するというものです。これは経営戦略にも位置づけられる内容となるため、BCGやマッキンゼーといった戦略ファームが担う分野となります。
役割②:DX推進組織体制構築支援
次に挙げられるのは、DX推進のための組織体制を構築する支援です。企業のDXを推進していくにあたって、どのような組織を作り、どのようなスキルセットを持った人材をどの程度配置していくかといったことを計画する支援です。人事組織コンサルの領域になるため、デロイトトーマツコンサルティングやKPMGコンサルティングといった、Big4各社の得意分野となります。
役割③:AI・RPAツールを使った業務自動化
DXを実現する手段の1つとして、業務プロセスの自動化・効率化が挙げられます。企業全体を変革させるにあたっては、既存のビジネスプロセスを変革させることも必須となります。これについては、ITコンサルティングにあたる分野となるため、アクセンチュアやEYアドバイザリー&サービスといった総合系・IT系ファーム各社、NTTデータやIBMといったSIer各社が得意とする領域となります。
役割④:SFA・MA・CRMツールの導入
AI・RPAツールを使った業務自動化と並び、「SFA・MA・CRMツールの導入」もDX化においては重要なステップとなります。DX推進において、既存の業務体制を整理し、顧客への提供価値を最大化する思考は必要不可欠です。そうしたプロセスを作り出すために、顧客情報を効率的かつ広範囲に取得し、リストの持つ価値を最大化させる自動化ツールの導入が必要となります。また「収集した顧客データをいかに活用可能なデータへと変換させるか」といった思考も重要です。SFA・MA・CRMツールの導入を通じ、社内のデータ活用基盤を整える一連の動きが、DXレポートで指摘されている「基幹システムの刷新」や「ベンダー企業との共創関係の構築」へと派生していきます。こちらについては、CRM領域のコンサルティングとなるため、アクセンチュアやデロイトトーマツコンサルティングといった総合系・IT系ファーム各社、セールスフォース・ドットコムや日立ソリューションといったソフトウェア・ITベンダの得意とする領域となります。
役割⑤:システムグランドデザイン
DXレポートにも触れられている通り、レガシーシステムの刷新は、企業各社がDXを推進していくにあたっては必要不可欠となります。現在、日本企業の情報システムは様々なシステムが入り組んでおり、部門やグループ会社ごとに使っているシステムが違う場合もあるなど、複雑化しています。これらのシステムを刷新し、統一・シンプル化することで社内のデータを有効活用でき、ビジネスプロセスやビジネスモデルの変革を実現できます。その実現に向けては、まずはTo-Beシステムの全体的なグランドデザインを描くことが必要となり、この領域の支援がコンサルティングファームの役割として挙げられます。具体的には、アクセンチュアやPwC、フューチャーアーキテクトといった総合系ファーム・IT系ファームが得意とするテーマとなります。
役割⑥:レガシーシステム刷新のためのERP導入
レガシーシステムの刷新にあたっては、部門やグループ会社のビジネスプロセス・システム・ビジネスルールの統一が必要です。そこで出番となるのが、SAPやD365といったERPパッケージです。ERPパッケージを導入することで、部門やグループ会社でバラバラだった業務プロセスやシステムを統一することができるため、レガシーシステムの刷新で用いられることが多いです。ERP導入については、アビームコンサルティングやアクセンチュアといった総合系ファーム、NTTデータや日立製作所、富士通といったSierが得意とする分野となります。
DXコンサルタントを目指すには?
ここまで、DXについて説明してきましたが、DXは非常に幅が広いです。一口に「DXコンサルタント」と言っても、戦略立案から組織構築、システム導入まで幅広い役割があります。よって、自身が企業のDX推進にあたって、「どの領域をサポートしたいのか?」を明確にすることが重要となります。 同時に、コンサルタント1人1人に求められる素養としても、単に「SAPに詳しい」「RPAに詳しい」といったことが求められるのではなく、企業全体の変革を見据えた課題の定義・ソリューションの提案が求められることとなります。 これらを踏まえたうえで、自身がコンサルタントとしてどの領域をサポートしていきたいのか、あるいはサポートできるのかを明確にしたうえで、採用試験に臨むことが重要となります。
まとめ
本日はDXについて徹底解説しました。企業のDX推進を支えるにあたって、コンサルタントは色々な役割を担うことができると言えます。また、自身がDXを推進したければ、事業会社で自ら推進していく立場を選んでみるのも面白いかも知れません。DXはデジタル化が進んだ現代においては、コンサルタントのみならずあらゆるビジネスマンが避けては通れないテーマとなります。この記事をきっかけにDXについて知っていただき、どう関わっていきたいか考えるきっかけになればと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。