バリューチェーン分析とは?具体的なやり方、活用場面、具体例など徹底解説
2025年06月05日更新
企業の価値創造プロセスを解き明かすバリューチェーン分析。この記事では、基礎概念から具体的な分析ステップ、活用事例、関連フレームワークまでを網羅。
自社の強み発見、コスト削減、戦略立案に役立つ情報が満載です。ぜひ最後まで読んでいただき、業務の参考にしてください!
目次
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バリューチェーン分析とは
企業の競争力を高め、持続的な成長を目指す上で、自社の活動が生み出す価値を深く理解することが不可欠です。そのための強力な分析手法がバリューチェーン分析です。
ここからはバリューチェーン分析の基本概念から、事業のどの部分で価値が創造され、競争優位に繋がるのかを明らかにするための具体的な構成要素までを解説します。
バリューチェーン分析とは
バリューチェーン分析とは、企業が行う様々な活動を、製品やサービスが顧客に届くまでの価値(バリュー)を生み出す一連の流れ(チェーン)として捉え、どの工程でどれだけの付加価値が生み出されているのかを分析し、競争優位性を確立するための戦略を検討するフレームワークです。
ハーバード大学経営大学院のマイケル・E・ポーター教授が著書『競争優位の戦略』の中で提唱しました。
企業活動を機能ごとに分類し、それぞれの活動が付加価値を創造しているのか、あるいはコストを増大させているのかを明らかにすることで、事業の強み・弱みを把握し、改善策や差別化戦略を検討するのに役立ちます。
具体的には、以下の点を明らかにすることを目的としています。
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コスト削減の機会特定: 各活動におけるコストを分析し、削減可能な部分を見つけ出します。
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付加価値向上の機会特定: 顧客にとって価値の高い活動は何かを分析し、その活動を強化することで製品やサービスの付加価値を高めます。
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競争優位性の源泉特定: 競合他社と比較して、どの活動で優位性があるのか、または劣位にあるのかを明確にします。
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事業再編・再構築の検討: 分析結果に基づき、特定の活動を強化、縮小、あるいはアウトソーシングするなどの意思決定に繋げます。
バリューチェーンの構成要素
バリューチェーンは、企業活動を価値創造の観点から分類したものであり、大きく分けて「主活動」と「支援活動」の二つのカテゴリーから成り立っています。
主活動とは、製品やサービスが実際に生産され、顧客の手に渡り、その後のサポートが行われるまでの一連の直接的な価値創造プロセスに関わる活動を指します。
最初に原材料や部品などを外部から調達し、受け入れ、検品、保管するといった「購買物流」から始まります。
次に、これらの調達したものを加工し、具体的な製品やサービスへと転換する「製造・オペレーション」の段階があります。製品が完成すると、それを効率的に保管し、注文に応じて顧客や流通チャネルへ配送する「出荷物流」が行われます。
そして、製品やサービスの存在や魅力を市場に伝え、実際の販売へと結びつける「マーケティング・販売」活動が続きます。
最後に、製品販売後も顧客満足度を維持・向上させるための設置、修理、トレーニング、問い合わせ対応といった「サービス」活動が主活動を締めくくります。
これら一連の流れが、顧客に直接的な価値を提供する主要な活動となります。
一方、支援活動は、これらの主活動が円滑かつ効率的に遂行されるように間接的にサポートする活動です。
支援活動は主活動全体、あるいは特定の主活動に対して横断的に機能します。
具体的には、戦略立案や財務、情報システム管理など組織全体の基盤を整備・運営する「全般管理」があります。
また、従業員の採用・育成・評価といった人的資源管理を通じて組織の活力を生み出す「人事・労務管理」も不可欠です。
さらに、製品改良や生産プロセスの効率化など、企業の競争力を支える技術基盤を構築・維持する「技術開発」も重要な活動です。
そして、原材料や設備といった企業活動に必要なあらゆる資源を最適な条件で購入し、コスト効率や品質確保の面で主活動を支える「調達活動」が挙げられます。
バリューチェーン分析とサプライチェーン分析との違い
バリューチェーン分析とサプライチェーン分析は、しばしば混同されがちですが、焦点となる範囲や目的が異なります。
バリューチェーン分析は、自社の活動を細分化し、「どこで価値を生み出すか」を追求するミクロな視点と、企業全体の価値創造プロセスを捉えるマクロな視点を併せ持ちます。
サプライチェーン分析は、企業間のモノの流れに着目し、「いかに効率的に届けるか」を追求する、よりオペレーショナルな視点が強いと言えます。
バリューチェーン分析を行う3つの目的・活用場面
バリューチェーン分析を行う主な目的は、以下の3点です。
- 自社の強みを可視化するため
- 無駄なコストを削減し利益拡大するため
- 経営資源の最適な分配方法を考えるため
それぞれ解説します。
バリューチェーン分析の第一の目的は、自社の事業活動全体を俯瞰し、強みを可視化することにあります。
具体的には、製品やサービスが顧客に届くまでの購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービスといった主活動と、それらを支える人事・労務管理、技術開発、調達活動といった支援活動の連鎖を詳細に分解し、それぞれの活動が最終的な顧客価値の創造にどのように貢献しているかを明らかにします。
このプロセスを通じて、他社と比較してどの活動が優れているのか、独自のノウハウや特殊なスキルがあるのかが明確になります。
第二に、バリューチェーン分析は、無駄なコストを削減し、結果として利益を拡大するために実施されます。
事業活動の各段階では必ずコストが発生しており、この分析を通じてコスト構造を詳細に把握することで、非効率な部分や削減可能なコストを具体的に特定できます。
そして第三の目的として、経営資源の最適な分配方法を考える上で、バリューチェーン分析は不可欠な手段となります。
企業が保有するヒト、モノ、カネ、情報といった経営資源は有限です。
分析結果に基づき、競争優位性の強化に繋がる活動や、大きなコスト削減効果が見込まれる活動など、投資対効果の高い領域を見極め、そこに優先的に資源を配分することが可能になります。
これら3つの目的についてはバラバラに存在せず、有機的に関わっています。
バリューチェーン分析を的確に実施することで、3つとも明らかになるイメージです。
バリューチェーン分析の具体的なやり方
バリューチェーン分析について、活動の洗い出し、コスト把握、競合比較、そして経営資源を評価するVRIO分析に至るまで、具体的なステップを丁寧に解説します。
自社のバリューチェーンを洗い出す
バリューチェーン分析を行うにあたり、最初のステップは自社の事業活動を工程として細分化し、可視化することです。
これにより、どの活動で付加価値が生まれ、どこにコストや強み・弱みが存在するのかを具体的に把握することが可能になります。
メリットとしては、各工程を個別に検証することで、どの部分でコストが過剰に発生しているのか、といった問題点が明らかになります。
同様に、競合他社と比較して自社が優位性を持つ工程や、顧客満足度の向上に特に大きく貢献している強みとなる活動も明確に特定できるようになります。
このように、各工程における課題や強みが具体的に把握できると、それらに基づいた的確な改善策を立案したり、より効果的な事業戦略を策定したりすることが可能になります。
スーパーマーケットを例に挙げてみてみましょう。
この業態は、商品を仕入れて顧客に販売するまでの一連のプロセスが事業活動の中心となります。
この業界においては、魅力的な品揃えを実現すること、効率的で快適な店舗運営を行うこと、そして顧客にとって満足度の高い購買体験を提供することが極めて重要な要素となります。
主活動は、まず顧客ニーズに基づいた商品の選定・仕入れと在庫管理を行う購買物流から始まります。
次に、商品の陳列、レジ業務、店舗維持といったオペレーションがあり、オンライン販売では商品の梱包・配送を行う「出荷物流」も加わります。
続いて、広告や販促キャンペーン、店舗レイアウトの工夫などを通じて購買を促進する販売・マーケティング、そして問い合わせ対応や返品受付などの「サービス」が顧客満足度を高めます。
これらの主活動を支えるのが支援活動です。
POSシステムやオンラインストア開発といった技術開発、店舗スタッフの採用・教育や労務管理を担う人事・労務管理、店舗備品などを調達する調達活動、そして経営戦略や財務管理、店舗開発を行う全般管理があります。
各工程のコストを把握する
バリューチェーン分析において、各工程のコストを正確に把握することは、企業の競争戦略を策定し、収益性を高める上で中心的な役割を果たします。
まず、コスト把握の出発点として、自社の事業活動全体を構成する個々の活動を詳細に洗い出し、それらを主活動と支援活動に分類します。
そして分類した活動に、実際にどれだけのコストが発生しているのかを割り当てていきます。
このとき、各活動のコストを変動させる主要因であるコストを特定することも重要です。
例えば、製造工程であれば生産量や機械の稼働時間、マーケティングであれば広告の出稿量などがコストの主要因となり得ます。
これらを明らかにすることで、コスト構造の理解が深まり、具体的なコスト削減の手がかりとなります。
このようにして洗い出し、コストが割り当てられた各工程は、詳細な分析の対象となります。
この工程分析を通じて、自社の事業がどのようなコスト構造になっているのかが可視化され、どの活動に経営資源が集中しているのか、あるいは効率性に課題があるのかといった点が明らかになります。
また、各活動に投入されているコストと、その活動が生み出す付加価値を比較検討することで、コストに見合う価値を創造できているかを評価できます。
競合と比較し自社の強み・弱みを分析する
バリューチェーン分析に競合他社との比較を取り入れることで、自社が市場においてどのような競争優位性を持ち、どのような課題を抱えているのか、客観的に理解することが可能となります。
競合の活動内容や強み・弱みを分析する際には、有価証券報告書や企業のウェブサイト、業界レポートといった公開情報を活用します。
可能であれば、ヒアリングなどを通じて情報を収集します。
こうして得られた情報を基に、自社と競合のバリューチェーンを工程ごとに比較検討します。
各工程におけるコストの優劣、生み出される付加価値の大小、模倣することが難しい独自の強みやノウハウの有無など、多角的な視点から評価を行います。
このような競合比較を通じて、自社のバリューチェーンにおける各工程の具体的な強みと弱みを明らかにしていきます。
強みとは、競合と比較して優位に立っている点、高い付加価値を生み出せている領域、コスト競争力で勝っている部分、あるいは他社にはない独自のノウハウが存在する箇所などを指します。
反対に弱みとは、競合に対して劣っている点、改善の余地が大きい領域、コストが過大になっている部分、あるいは事業全体のボトルネックとなっている工程などを指します。
VRIO分析を行う
VRIO分析は、企業の持つ経営資源が競争優位性をもたらすかどうかを評価するためのフレームワークです。
VRIOは、以下の4つの評価軸の頭文字を取ったものです。
- V (Value): 価値:経営資源が、企業にとって事業機会を活かしたり、外部環境の脅威を無力化したりするのに役立つか、あるいは顧客にとって価値を生み出すかなどといった経済的な価値があるかを示します。
- R (Rarity): 希少性:その経営資源を保有している企業が、業界内に少数であるか、あるいは、競合他社が容易に入手できないものであるかを示します。
- I (Imitability): 模倣可能性:競合他社がその経営資源を模倣しようとした際に、コストや時間、技術的な困難さなどから、容易に模倣できないかを示します。
- O (Organization): 組織:企業に価値があり、希少で、模倣困難な経営資源を有効に活用するための適切な方針やシステム、組織文化、従業員のスキルといった組織的な体制や能力が整備されているかを示します。
バリューチェーン分析に加えてVRIO分析を行うことで、どの活動が競争優位の源泉となっているのか、あるいは競争上の弱点となっているのかを具体的に評価することができます。
バリューチェーン分析の具体的な事例
バリューチェーン分析の事例として、トヨタ自動車を見ていきましょう。
トヨタ自動車
トヨタの主活動は、まず「ジャスト・イン・タイム(JIT)」を核とする購買物流から始まります。サプライヤーとの緊密な連携により在庫コストと無駄を削減し、効率的な部品調達を実現しています。
製造工程では、トヨタ生産方式(TPS)が中心となり、その二大原則であるJITと「自働化(ニンベンのついたジドウカ)」、そして「改善(カイゼン)」の精神とムダの徹底排除を通じて、高品質な製品を効率的に生産します。
支援活動として、まず戦略的な調達活動があります。サプライヤーとの長期的関係に基づき、QCD(品質・コスト・納期)の最適化、サプライチェーン強化、そして環境負荷低減を目指す「グリーン調達」を推進しています。
技術開発では、CASE戦略に基づき次世代自動車、AI、コネクテッド技術へ大規模投資を行うほか、新素材開発や生産技術の改善、さらにはより広範な社会的ニーズに応える技術開発も進めています。
トヨタのバリューチェーンは、競争優位を確立しています。
まず、トヨタ生産方式(TPS)、特に製造と購買物流におけるジャスト・イン・タイム(JIT)と自働化は、無駄を最小限に抑え、在庫を削減し、生産コストを引き下げることにより、競争力のある価格設定と高い収益性を実現しています。
加えて、不良品発生を防ぐ「自働化」、継続的改善「カイゼン」、そして研究開発から調達、製造、サービスに至るバリューチェーン全体での厳格な品質管理は、トヨタブランドの重要な差別化要因となっています
引用:sincereed 引用:Response.ビジネス 引用:TOYOTA
バリューチェーン分析と合わせて使いたいフレームワーク
バリューチェーン分析は単独で用いるだけでなく、PEST分析、ファイブフォース分析、3C分析、SWOT分析といった他のフレームワークと組み合わせることで、さらに高い効果が得られます。詳しく見ていきましょう。
PEST分析
PEST分析は、企業を取り巻くマクロ環境を網羅的に把握し、それが自社の事業活動にどのような影響を与えるのかを予測・評価するためのフレームワークです。
PEST分析は、以下の4つの頭文字を取ったもので、これらの要因が企業経営にどのような影響を与えるかを分析します。
- P:政治的要因(Politics)
- E:経済的要因(Economy)
- S:社会的要因(Society)
- T:技術的要因(Technology)
PEST分析の結果をバリューチェーンの各活動に照らし合わせることで、マクロ環境の変化が自社のどの部分にどのような影響(機会または脅威)をもたらすのかを詳細に検討することができます。
例えば、技術的要因として新たな自動化技術が登場した場合、バリューチェーンの「製造・オペレーション」活動においてコスト削減や品質向上の機会が生まれるかもしれません。
また、社会的要因として環境意識が高まっている場合、「技術開発」活動において環境配慮型製品の開発が求められるでしょう。
PEST分析については、こちらで詳しく書いています。
ファイブフォース分析
ファイブフォース分析は、業界の収益性を決定する5つの競争要因を分析し、業界の構造や魅力度を明らかにするためのフレームワークです。
ファイブフォース分析では、以下の5つの競争要因(脅威)に着目します。
- 業界内の競争
- 新規参入の脅威
- 代替品の脅威
- 買い手の交渉力
- 売り手の交渉力
バリューチェーン分析がコスト削減や付加価値向上の機会を探るために「自社内部の活動」に焦点を当てるのに対し、ファイブフォース分析は「自社を取り巻く外部環境」の競争要因を明らかにします。
これら二つのフレームワークを組み合わせることで、多角的な戦略的洞察を得ることが可能になります。
3C分析
3C分析は、事業戦略やマーケティング戦略を立案する際に用いられる、基本的かつ重要なフ レームワークの一つです。
- 顧客 (Customer):市場や顧客のニーズは何か。
- 競合 (Competitor):競合他社はどのような状況か。
- 自社 (Company):自社の強みや弱みは何か。
これら3つの要素を多角的に分析することで、自社が市場で成功するための戦略を導き出すことができます。
3C分析によって導き出された自社の現状認識、特にその強みや弱みといった要素は、バリューチェーンのどの活動が中心なのか見ていくことで、より具体的な戦略へと昇華させることができます。
例えば、3C分析の結果、自社の「高い製品品質」が強みであると認識された場合、バリューチェーン分析を用いることで、その品質が研究開発部門の卓越した技術力によるものなのか、あるいは製造工程における厳格な品質管理体制の賜物なのか、または高品質な原材料の調達力に支えられているのか、といった具体的な要因を特定できます。
3C分析について、詳しくはこちらで書いています。
SWOT分析
SWOT分析は、以下の4つの要素の頭文字を取って名付けられた分析手法で、企業や事業の現状を多角的に把握し、今後の戦略立案に役立てることを目的としています。
- Strengths (強み)
- Weaknesses (弱み)
- Opportunities (機会)
- Threats (脅威)
これらの要素を、「内部環境」と「外部環境」、「プラス要因」と「マイナス要因」という2つの軸で整理します。
バリューチェーン分析を通じて具体化された企業の「強み」と「弱み」は、次にSWOT分析の枠組みの中で、市場の成長機会や競合の動向、技術革新、法規制の変更といった外部環境の「機会」や「脅威」と照らし合わせられます。
このクロスSWOT分析の過程において、バリューチェーンの情報は戦略の具体性を高めます。
例えば、自社の「強み」である高度な研究開発能力を、成長著しい新規市場という「機会」に結びつけることで、「強みを活かして機会を捉える戦略」として考えることができます。
SWOT分析について、詳しくはこちらで書いています。
まとめ
バリューチェーン分析は、企業の事業活動を価値(バリュー)の連鎖(チェーン)として捉え、どの工程で付加価値が生み出されているかを分析し、競争優位戦略を検討する手法です。
目的は自社の強みの可視化、無駄なコストの削減、経営資源の最適な分配。
具体的なやり方として、活動の洗い出し、コスト把握、競合比較、VRIO分析などがあります。
PEST分析など他のフレームワークと組み合わせることで、より効果的な戦略立案に繋がります。
経営の知識の一つとして、ご参考にいただければ幸いです。
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