M&Aコンサルタントとは?仕事内容・年収・キャリアパスについて解説
2025年10月24日更新
企業の成長戦略や事業再編の手段として「M&A(企業の合併・買収)」は年々重要性を増しています。その最前線で活躍するのが、経営・財務・法務の専門知識を駆使して案件を支援するM&Aコンサルタントです。
M&Aコンサルタントは、単なる仲介役ではありません。買収・売却の戦略立案から企業価値の算定、交渉支援、統合プロセス(PMI)まで、経営の意思決定に深く関わる高度な専門職です。市場環境の変化が激しい今、M&Aを通じて企業の未来をデザインする存在として注目を集めています。
本記事では、M&Aコンサルタントの仕事内容・年収・キャリアパスをはじめ、求められるスキルや未経験からの転職方法までを詳しく解説します。金融・会計の知見を活かしたい方や、より経営に近い立場で活躍したい方は、ぜひ参考にしてください。
著者

大河内 瞳子
Okochi Toko
株式会社MyVision執行役員
名古屋大学卒業後、トヨタ自動車での海外事業部、ファーストリテイリング/EYでのHRBP経験を経てMyVisionに参画。HRBPとして習得した組織設計、採用、評価などの豊富な人事領域経験を生かした支援に強みを持つ。
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監修者

岡﨑 健斗
Okazaki Kento
株式会社MyVision代表取締役
東京大学を卒業後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社。主に金融・通信テクノロジー・消費財業界における戦略立案プロジェクトおよびビジネスDDを担当。採用活動にも従事。 BCG卒業後は、IT企業の執行役員、起業・売却を経て、株式会社MyVisionを設立。
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目次
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M&Aコンサルタントとは?

M&Aコンサルタントは、企業の合併・買収を専門的に支援するプロフェッショナルです。経営戦略の実現に向けて、案件の企画から実行、統合後のサポートまで一貫して関与します。
ここでは、M&Aコンサルタントの定義や役割、関わる案件の特徴、他職種との違いについて詳しく見ていきましょう。
定義と役割
M&Aコンサルタントとは、企業の合併・買収において戦略立案から実行支援までを担う専門職です。単なる仲介ではなく、経営・財務・法務など多角的な視点から最適なM&Aを設計し、クライアントの成長戦略を実現する役割を担います。
具体的には、買収・売却の目的整理、候補企業の選定、企業価値評価(バリュエーション)、条件交渉、デューデリジェンス(詳細調査)など、M&Aプロセス全体を統括します。加えて、案件成立後の統合作業(PMI)を支援することも多く、経営変革に深く関与できるポジションです。
経営層と直接やり取りする機会も多く、ビジネスの最前線で意思決定をサポートするのがM&Aコンサルタントの特徴です。専門知識だけでなく、論理的思考力やコミュニケーション力が問われる高難度な職種といえるでしょう。
案件規模とクライアント企業の特徴
M&Aコンサルタントが手がける案件の規模は、数億円規模の中小企業から数千億円に及ぶ大企業まで多岐にわたります。 所属するファームのタイプや専門領域によって、担当するクライアント層や支援内容が大きく異なります。
たとえば、大手コンサルティングファームやFAS(Financial Advisory Services)部門では、上場企業や外資系企業の大型案件を担当し、経営戦略やグローバル展開を見据えた統合支援を行います。
一方で、中堅・独立系のM&Aアドバイザリーファームでは、事業承継や中小企業の事業売却など、オーナー経営者に寄り添った支援が中心です。
いずれのケースでも、M&Aコンサルタントは「企業の将来を左右する意思決定」に携わる立場にあります。企業の成長フェーズや目的に合わせ、戦略的な提案と実行力の双方が求められる点が特徴です。
投資銀行や戦略コンサルとの違い
M&Aを扱う職種には「M&Aコンサルタント」「投資銀行」「戦略コンサル」の3つがありますが、それぞれの立ち位置と役割は異なります。
以下の表で違いを整理してみましょう。
| 比較項目 | M&Aコンサルタント | 投資銀行 | 戦略コンサル |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 企業の成長戦略や事業再編を支援 | 資金調達・取引実行による手数料収益 | 経営戦略や新規事業の構築 |
| 関与フェーズ | 戦略立案〜実行・PMIまで一貫対応 | 取引実行が中心(仲介・交渉) | M&A前の戦略策定・市場分析 |
| 主なクライアント | 事業会社・経営層 | 上場企業・機関投資家 | 経営陣・新規事業部門 |
| 報酬体系 | 成果報酬+固定報酬 | 成約ベースの手数料 | プロジェクト単位のフィー |
M&Aコンサルタントは、投資銀行の実務力と戦略コンサルの構想力の両方を兼ね備えた存在といえます。単に「取引を成立させる」だけでなく、企業価値を最大化するための戦略的提案から実行支援までを一貫して担う点が最大の特徴です。
今回比較として取り上げた戦略コンサルタントについては、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
M&Aコンサルタントが求められる背景
企業の経営環境が大きく変化するなかで、M&Aコンサルタントの需要は年々高まっています。特に次の3つの要因が背景にあります。
- 国内市場の成熟化と成長の鈍化:自社だけでは持続的な成長が難しく、他社との統合や買収を通じた事業拡大が必要になっている
- 事業承継問題の深刻化:中小企業を中心に後継者不在が進み、第三者へのM&Aが円滑な事業継続の手段として選ばれている
- 案件の大型化・複雑化:クロスボーダーM&AやDX関連の投資など、財務・法務・ITを横断した専門知識が求められるケースが増加している
これらの要素により、M&Aの実行を支える専門家の必要性が高まっています。M&Aコンサルタントは、企業の経営課題を理解しながら、戦略から実行までを一貫して支援できる存在として注目されています。
M&Aコンサルタントの仕事内容
M&Aコンサルタントの業務は、単に買収や売却を仲介するだけではありません。企業の経営課題を理解したうえで、戦略立案から実行・統合(PMI)まで一貫して支援することが求められます。
M&Aの各フェーズでは、目的設定、候補先の調査、企業価値の算定、契約交渉、統合支援など、それぞれに異なる専門スキルが必要です。
ここでは、M&Aコンサルタントが担当する主な業務プロセスを段階ごとに解説します。
M&A戦略の立案と企画支援
M&Aコンサルタントは、案件の起点となる「戦略フェーズ」で企業がどの事業領域・市場で成長すべきかを具体的に設計します。 経営課題を分析し、どのようなM&Aが最も効果的かを明確にすることが目的です。
主な業務内容は次の通りです。
- 経営戦略・中期計画の分析:既存事業の課題や成長余地を把握し、M&Aの必要性を明確化する
- 業界・競合調査:市場動向やプレイヤー分析を通じて、対象領域の成長可能性を評価する
- M&A目的の整理:新規事業参入、事業拡大、技術獲得、事業承継など、目的に応じた方針を設定する
- シナジー効果の試算:買収後の収益向上やコスト削減など、定量的な効果をシミュレーションする
- 実行計画の策定:買収手法やスケジュール、体制などを整理し、経営層へ提案する
この段階での提案の質が、案件全体の成功を左右します。M&Aコンサルタントは、経営者の意思決定を支える“戦略パートナー”としての役割を担っています。
買収・売却先候補の調査(ソーシング)
M&A戦略が定まった後は、具体的な買収・売却先を探す「ソーシング」フェーズに入ります。M&Aコンサルタントは、戦略目的に沿って最適な候補企業を抽出し、交渉可能な土台を築く役割を担います。
主な業務内容は以下の通りです。
- 候補企業リストの作成:業界データベースや独自ネットワークを活用し、条件に合致する企業をリストアップする
- スクリーニング・選定:財務状況、事業シナジー、経営体制などを分析し、優先度を整理する
- 企業へのアプローチ支援:秘密保持契約(NDA)を締結したうえで、意向確認や初期的な打診を行う
- トップ面談の調整:経営者同士の面談や情報交換の場を設定し、初期段階の信頼構築をサポートする
- 取引ストラクチャーの検討:株式譲渡、事業譲渡、合弁など、案件の目的に応じた取引形態を提案する
ソーシングは、M&Aプロセスのなかでも最も地道で戦略性が求められる工程です。クライアントの意図を理解し、適切な相手を見つけ出す分析力と交渉センスが、M&Aコンサルタントの成果を大きく左右します。
企業価値評価(バリュエーション)
M&Aの成否を左右する重要なプロセスが、買収・売却対象企業の価値を算定する「バリュエーション」です。M&Aコンサルタントは、財務データや市場動向をもとに、客観的で妥当な企業価値を導き出します。
主な業務内容は以下の通りです。
- 財務諸表の分析:過去数年分のPL・BS・CFを確認し、収益性・安全性・成長性を評価する
- 将来キャッシュフローの予測:今後の売上・利益・投資計画をもとに、将来の資金創出力を算定する
- 評価手法の選定・適用:DCF法、マルチプル法、類似会社比較法などを組み合わせて企業価値を試算する
- シナリオ分析の実施:複数の前提条件を設定し、リスク要因による企業価値の変動を検証する
- バリュエーションレポートの作成:算定結果と前提条件を整理し、経営層や投資家にわかりやすく報告する
バリュエーションは、財務分析力と論理的思考力の両方が問われる工程です。M&Aコンサルタントは、単に数値を算出するだけでなく、「なぜこの価値になるのか」を説明できる説得力が求められます。
デューデリジェンス(財務・法務・ビジネスDD)
デューデリジェンス(Due Diligence:DD)は、買収・売却を進めるうえで対象企業のリスクや課題を明確にする最重要プロセスです。M&Aコンサルタントは専門家チームと連携し、財務・法務・ビジネスの観点から詳細な調査を実施します。
主な業務内容は以下の通りです。
- 財務デューデリジェンス(FDD):収益構造や債務状況、キャッシュフローの実態を分析し、粉飾や過大負債の有無を確認する
- 法務デューデリジェンス(LDD):契約書・知的財産・労務関係などの法的リスクを洗い出し、コンプライアンス状況を評価する
- ビジネスデューデリジェンス(BDD):市場ポジション、競合優位性、事業モデルの持続可能性を検証する
- リスク評価と影響分析:潜在リスクが取引価格やPMIに与える影響を定量的に整理する
- 調査結果のレポート化:各領域の専門家と内容を統合し、経営判断の材料となる報告書を作成する
デューデリジェンスは、M&Aの「安全性」を確保するための工程です。ここで得られた知見は、最終契約条件の交渉や統合計画の立案にも直結するため、M&Aコンサルタントの調整力と洞察力が試されます。
契約条件交渉の支援
デューデリジェンスの結果を踏まえ、M&Aコンサルタントは買収・売却条件の交渉をサポートします。この段階では、価格だけでなく、支払い条件・株式比率・経営権の移行時期など、細かな取り決めを慎重に詰める必要があります。
主な業務内容は以下の通りです。
- 交渉方針の策定:クライアントの目的・譲れない条件を整理し、最終合意に向けた交渉シナリオを立てる
- 価格条件の調整:バリュエーションやDD結果をもとに、買収価格・補償条項・支払いスキームを交渉する
- 契約スキームの検討:株式譲渡、事業譲渡、合併など、目的に応じた最適な契約形態を選定する
- 弁護士・会計士との連携:契約書の文言や法務・税務上のリスクについて、専門家と協議しながら精査する
- 基本合意書(LOI)・最終契約書(SPA)作成支援:取引条件やスケジュールを文書化し、署名プロセスをサポートする
契約交渉は、M&Aプロジェクトの成否を決定づける重要な局面です。M&Aコンサルタントは、双方が納得できる条件を導き出すため、論理的な根拠と調整力の双方を駆使して交渉をリードします。
PMI(統合プロセス)のサポート
M&Aの最終段階では、契約締結後に買収先と自社を統合する「PMI(Post Merger Integration)」が行われます。M&Aコンサルタントは、組織や業務の仕組みを整え、買収効果を実際の業績向上につなげるための支援を担います。
主な業務内容は以下の通りです。
- 統合計画の策定:経営方針や事業目標を踏まえ、組織・人事・IT・会計などの統合方針を立案する
- 統合チームの設置支援:経営陣と現場をつなぐ統合プロジェクトチームを組成し、役割や責任を明確化する
- 業務・システム統合の推進:会計基準やITシステムを共通化し、運用効率とデータ連携を強化する
- 人材・文化の調整:組織風土や評価制度の違いを理解し、従業員のモチベーション維持を図る
- シナジー効果のモニタリング:収益向上・コスト削減などの統合効果を定量的に検証し、改善策を提案する
PMIは、M&Aの成果を実際の経営成果へとつなげる重要な工程です。M&Aコンサルタントは、経営と現場の橋渡し役として、長期的な視点で企業の価値向上を支援します。
M&Aコンサルタントの仕事内容については、以下の記事でも詳しく解説しています。ぜひ参考にしてください。
M&Aコンサルタントの年収・待遇
M&Aコンサルタントは、コンサル業界のなかでも高い報酬水準を誇る職種です。専門知識と成果が報酬に直結するため、スキルや実績によって大きく年収が変動します。
特に、案件の成約に応じてインセンティブが支給されるケースが多く、実力次第で同年代よりも早い段階から高収入を得ることが可能です。
ここでは、平均年収や役職別レンジ、成果報酬の仕組み、他職種との比較について詳しく見ていきましょう。
平均年収と役職別レンジ
M&Aコンサルタントの平均年収は、厚生労働省の職業情報サイト 「jobtag」によると約903.2万円です。(引用:job tag)
専門性が高く、成果が報酬に反映されやすい職種であるため、同年代の平均を大きく上回る水準となっています。
役職ごとの年収レンジは、M&A支援を中心とするFAS(Financial Advisory Services)系ファームの一例として、KPMG FASを参考にすると、以下のように推移します。
| 役職 | 想定年収レンジ |
|---|---|
| ジュニアアソシエイト/アナリスト | 600万円〜800万円 |
| シニアアソシエイト/アソシエイト | 800万円〜1,100万円 |
| シニアマネージャー/マネージャー | 1,000万円〜1,500万円 |
| ディレクター | 1,400万円〜2,000万円 |
引用:OpenWork
KPMG FASの全体的な平均年収は1,229万円と、M&Aコンサルタントの平均年収よりも高い傾向があります。
役職が上がるほど、案件獲得力やチーム統率力が重視され、年収も大きく上昇します。特にマネージャー以降は、成果連動報酬やボーナスの割合が高くなる傾向があります。
今回例に挙げたKPMG FASについては、以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
インセンティブや成果連動型報酬
M&Aコンサルタントの報酬は、基本給に加えて成果連動型のインセンティブ制度が導入されているケースが多く見られます。 案件の成約やチーム目標の達成度に応じて報酬が支給される仕組みです。
主なインセンティブの仕組みは以下の通りです。
- 案件成約ボーナス:買収・売却案件が完了した際に、契約規模や貢献度に応じて支給される
- チーム業績連動賞与:部門全体の売上・利益目標の達成率に基づき、四半期または年次で支給される
- 個人評価ボーナス:クライアント対応力や案件貢献度など、定性面の成果も加味して評価される
- 大型案件インセンティブ:取引金額が大きい案件やクロスボーダー案件などでは、特別報酬が設定されることもある
このような成果報酬制度により、優秀なコンサルタントほど年収が大幅に伸びやすい構造になっています。
特に日系M&Aアドバイザリーファームや上場企業系のコンサル会社では、成果報酬の割合が全体の30〜50%を占めるケースもあり、実力主義の色合いが強い点が特徴です。
投資銀行・戦略コンサルとの比較
同じく高収入が期待できる専門職でも、M&Aコンサルタント・投資銀行・戦略コンサルでは、報酬水準とその構造が大きく異なります。
ここでは、代表的な企業の平均年収データをもとに、それぞれの特徴を比較します。
| 職種 | 代表企業 | 平均年収の目安 | 報酬構造の特徴 | 評価・昇進の傾向 |
|---|---|---|---|---|
| M&Aコンサルタント | KPMG FAS | 1,229万円 | 固定給+案件ごとのインセンティブ(成果連動型) | 案件貢献度・チーム成果・専門性の高さを重視 |
| 投資銀行 | ゴールドマン・サックス証券 | 1,791万円 | 年俸+ボーナス比率が高く、個人の成果に強く連動 | 案件獲得力・取引規模・個人実績が中心 |
| 戦略コンサル | マッキンゼー・アンド・カンパニー | 1,428万円 | 固定報酬中心、ボーナスはパフォーマンス連動 | クライアント評価・知的貢献・チーム成果を重視 |
引用:OpenWork
データから見ると、M&Aコンサルタントは投資銀行より低く、戦略コンサルとほぼ同水準の年収帯にあります。 ただし、成果報酬の割合が高いため、案件規模や役職によって年収差が非常に大きくなるのが特徴です。
特にマネージャーやディレクター層では、案件獲得や統合支援での貢献度が評価に直結します。一方で、若手層では固定給中心のため、実績を積むまでは戦略コンサルと近いレンジに留まる傾向があります。
M&Aコンサルタントに必要な資格
M&Aコンサルタントに、必須の資格はありません。 しかし、専門知識を体系的に学び、クライアントからの信頼を得るうえでは、関連資格の取得が大きな強みになります。
特に、財務分析・経営戦略・法務の3領域はM&A実務と密接に関わっており、それぞれに対応する資格を持っていると、案件対応力が高まりやすいです。
ここでは、M&Aコンサルタントとしての専門性を高めるうえで「あると有利な資格」を分野別に紹介します。
財務・会計スキルを証明できる資格
M&Aコンサルタントにとって、最も基礎となるのが財務・会計の知識です。企業価値評価や財務デューデリジェンスなど、数字を正確に読み解く力が求められるため、財務スキルを客観的に示せる資格は大きな強みになります。
代表的な資格は以下の通りです。
| 資格 | 概要 |
|---|---|
| 公認会計士 | 財務諸表の分析やデューデリジェンス業務に直結し、FAS(財務アドバイザリー)部門では特に重視される |
| 日商簿記1級・2級 | 会計処理や財務構造の理解に役立ち、実務の土台を固める基本資格として評価が高い |
| 証券アナリスト(CMA) | 企業価値評価や投資判断に関する知識を体系的に学べ、バリュエーション業務に活かしやすい |
これらの資格は、M&A実務における「定量的な判断力」を養ううえで有効です。資格を通じて得た知識をベースに、経営や戦略視点を組み合わせることで、より説得力のある提案ができるようになります。
経営・戦略の理解を深める資格
M&Aコンサルタントは、財務分析だけでなく、企業の成長戦略を描く力も求められます。経営全体を俯瞰し、事業ポートフォリオの再構築やシナジー創出を提案するためには、経営理論や戦略策定の知識を体系的に学ぶことが有効です。
代表的な資格は以下の通りです。
| 資格 | 概要 |
|---|---|
| 中小企業診断士 | 経営戦略、組織、人事、財務など幅広い分野を網羅。中堅・中小企業向けのM&A支援に特に有用 |
| MBA(経営学修士) | グローバル企業の経営戦略やリーダーシップを体系的に学べる。外資系コンサルや上流案件での評価が高い |
| 経営戦略修士 | 国内MBAの一種で、実務家教員によるケーススタディを通じ、経営判断力を実践的に養える |
これらの資格を持つことで、財務分析にとどまらず、経営課題を総合的に捉えた提案が可能になります。特にマネージャー以上を目指す段階では、経営視点を身につけることが大きな差別化につながります。
法務・ビジネス実務に役立つ資格
M&Aでは、契約交渉やデューデリジェンスなど、法務の知識が欠かせない局面が数多く存在します。法的リスクを理解し、適切な助言を行うためには、基礎的な法律知識を身につけておくことが重要です。
代表的な資格は以下の通りです。
| 資格 | 概要 |
|---|---|
| ビジネス実務法務検定 | 企業法務の基本を体系的に学べる。契約書の読み解きやリスク管理など、M&A実務に直結する知識を習得可能 |
| 行政書士 | 会社法や契約関連の法務知識を有し、登記や契約書作成などの法的手続きに強みを持つ |
| 弁護士資格(司法試験合格) | 法的リスクの評価や契約交渉を自ら主導できる高度資格。法務デューデリジェンス領域で特に有利 |
M&Aコンサルタントは弁護士ほどの法的専門性を求められるわけではありませんが、契約や法規制の基本を理解していることが、クライアントとの信頼構築につながるケースは多いです。
ビジネス実務レベルでも法務知識を習得しておくと、交渉や報告書作成の精度を高められます。
M&Aコンサルタントに求められるスキル・人物像
M&Aコンサルタントは、財務や法務などの専門知識だけでなく、クライアントと信頼関係を築くための高いコミュニケーション力や論理的思考力が求められます。
案件ごとに状況が異なり、常に複数の利害関係者と調整を行うため、幅広いスキルと柔軟な対応力が欠かせません。
ここでは、M&Aコンサルタントとして活躍するために必要な主要スキルと、向いている人物像を具体的に紹介します。
財務・会計の専門知識
M&Aコンサルタントにとって、最も基礎となるのが財務・会計の知識です。企業価値を正しく評価し、リスクを見極めるためには、数字から経営実態を読み解く力が不可欠です。
活かされる主な場面は以下の通りです。
- 企業価値評価(バリュエーション):財務諸表やキャッシュフローをもとに、DCF法やマルチプル法で企業価値を算定する
- 財務デューデリジェンス(FDD):買収対象企業の収益性や負債構造を分析し、リスクや隠れ債務を特定する
- 統合後の財務モニタリング:PMIフェーズでの業績管理やKPI設計において、財務データを活用して経営状況を可視化する
これらの知識は、単に会計数字を扱うだけでなく、「企業の意思決定に活かす分析力」として求められます。
簿記や財務モデリングのスキルを身につけることで、提案内容の説得力を大きく高めることができます。
論理的思考力と分析力
M&Aコンサルタントには、複雑な情報を整理し、根拠に基づいて最適な判断を導く論理的思考力と分析力が欠かせません。 多くの利害関係者が関わるM&Aでは、感覚ではなくデータとロジックに基づく説明が求められます。
これらのスキルが活かされる主な場面は以下の通りです。
- 市場・競合分析:業界構造や競合他社の動向を定量的に整理し、買収戦略の方向性を導く
- シナリオプランニング:複数のM&Aスキームを比較し、収益性・リスク・コストの観点から最適案を提案する
- 経営層への提案資料作成:財務データや分析結果をもとに、論理的に構成されたプレゼンテーションを作成する
論理的思考力は、単なる分析スキルにとどまらず、経営層を納得させる説得力の基盤でもあります。
数値をもとに一貫したストーリーを描ける人ほど、M&Aコンサルタントとして高い評価を得やすい傾向にあります。
交渉力・コミュニケーション力
M&Aコンサルタントは、経営者・投資家・専門家など多くの関係者と関わりながら案件を進めます。そのため、交渉力とコミュニケーション力は、専門知識と並んで最も重視されるスキルの一つです。
活かされる主な場面は以下の通りです。
- 条件交渉・価格調整:買収価格や譲渡条件をめぐる交渉で、双方が納得できる着地点を導く
- ステークホルダー調整:経営陣、弁護士、会計士など、異なる立場の関係者をまとめてプロジェクトを推進する
- クライアント対応:経営層との面談や報告で、複雑な内容をわかりやすく伝え、信頼関係を築く
M&Aは利害が対立する場面も多く、冷静さと粘り強さが求められます。
相手の立場を理解しつつ論理的に主張を組み立てられる人ほど、プロジェクトを円滑に進めることができます。
高いストレス耐性とタフさ
M&Aコンサルタントは、常に厳しい納期と高い成果を求められる環境で働きます。 そのため、ストレス耐性とタフさは、長期的に活躍するうえで欠かせない資質です。
求められる場面は次のとおりです。
- 短期間での成果創出:案件ごとにスケジュールが厳しく、限られた時間で高品質な成果物を仕上げる必要がある
- 不確実な状況下での意思決定:買収条件や交渉結果が変動しやすく、想定外のトラブルにも柔軟な対応が必要
- 高負荷なプロジェクト環境:複数案件を同時進行することも多く、精神的・体力的な持久力が求められる
M&Aコンサルタントの仕事はハードワークになりがちですが、挑戦を楽しめる人ほど成長の機会も大きい職種です。
困難な局面でも前向きに取り組み、チームで支え合いながら成果を出せる人がこの仕事に向いています。
M&Aコンサルタントのキャリアパス
M&Aコンサルタントは、案件経験を重ねるごとに幅広い専門スキルを身につけ、早期に成長できる職種です。財務・法務などの知識だけでなく、経営者と交渉を重ねるなかで営業力やマネジメント力も磨かれるため、3〜5年で大きく市場価値を高められます。
入社初期はアシスタント業務からスタートしますが、3年目には一人で案件を担当する「M&Aコンサルタント」として独り立ちするのが一般的です。その後は、マネージャーや部長としてチームを率いるほか、新規事業の立ち上げや経営層への昇進など、キャリアの選択肢が多様に広がります。
ここでは、M&Aコンサルタントがどのようなステップでキャリアを築いていくのか、年次ごとの成長イメージを具体的に紹介します。
入社〜3年目:基礎スキルを磨き一人前のコンサルタントへ
入社直後は、上司や先輩コンサルタントのサポートを通じて、M&A業務の全体像を学びます。案件調査、資料作成、企業分析などを担当しながら、実務を通して知識と経験を積み上げていきます。
特に1〜3年目は、営業力・会計・税務・法務・労務などの基礎スキルを身につける重要な時期です。経営者と直接対話し、提案や交渉の現場を経験することで、数字の裏にある経営判断を理解できるようになります。
多くの企業では、3年間で約10件の成約を経験することを目標に設定しています。案件を一通り担当できるようになると、クライアント対応からクロージングまでを自ら主導する「一人前のM&Aコンサルタント」として独立して案件を任されるようになります。
3年目以降:マネジメント・新規領域への挑戦
3年目以降は、複数の案件を同時に進めながら、後輩やチームをまとめるマネジメント業務にも関わるようになります。プレイヤーとして成果を出すだけでなく、チーム全体の目標達成を見据えたリーダーシップが求められます。
このフェーズでは、M&A仲介やアドバイザリーにとどまらず、提携先企業との新領域開拓や社内プロジェクトの立ち上げなど、業務範囲が拡大します。クライアントの経営課題を深く理解し、戦略的な提案を行うことで、より高単価・大型の案件を担当する機会も増えていきます。
また、成果やリーダーシップが評価されると、マネージャーやシニアコンサルタントとしてチーム運営や若手育成を担う立場へステップアップします。この段階で培った「マネジメント力」や「事業創造力」は、次のキャリアにつながる大きな資産となります。
将来のキャリア:経営層・専門職・独立など多様な道へ
経験を重ねたM&Aコンサルタントには、社内外でさまざまなキャリアの選択肢が開かれています。プレイヤーとしての実績を積んだ後は、部長・取締役などの経営層に昇進するルートが代表的です。
また、特定領域に強みを持つコンサルタントは、M&A専門職として独立や社内起業を選ぶケースもあります。 自ら案件を獲得し、顧問・アドバイザーとして複数企業を支援するなど、自由度の高い働き方も可能です。
さらに、事業会社や投資ファンドに転身し、経営企画・CFO・投資担当として経営側でM&Aを推進するキャリアも人気があります。
いずれの道でも、M&Aコンサルタントとして培った「交渉力」「財務・経営知識」「実行力」は強力な武器となり、キャリアの可能性を大きく広げてくれます。
未経験からM&Aコンサルタントを目指すには
M&Aコンサルタントは専門性の高い職種ですが、未経験からの転職も十分に可能です。実際、営業職や金融機関、経営企画など異業種出身で活躍している人も多く、これまでの経験を活かしながらキャリアチェンジできます。
重要なのは、M&A業務に必要な基礎知識を身につけ、数字や経営に強い姿勢を示すことです。
ここでは、未経験からM&Aコンサルタントを目指す際に押さえておきたい準備のポイントや、転職を成功させるための具体的なステップを解説します。
転職を成功させるために準備すべきこと
未経験からM&Aコンサルタントを目指す場合、まずは基礎知識と実務理解を固めることが重要です。M&A業界では即戦力が求められるため、事前準備の質が転職成功の大きな分かれ目になります。
押さえておきたい準備のポイントは以下の通りです。
- M&Aの基礎知識を学ぶ:M&Aの流れや主要用語(バリュエーション、デューデリジェンス、PMIなど)を理解しておく。書籍や入門講座、オンライン講座を活用すると効果的
- 財務・会計の基礎を習得する:簿記や財務三表の読み方、企業価値評価の仕組みを学び、数字を扱う力を身につける
- 論理的思考力とビジネス文章力を鍛える:提案資料や分析レポートの作成力は、選考や実務で高く評価される
- 志望動機を具体化する:なぜM&Aに関わりたいのか、どんなスキルを活かせるのかを言語化しておくことで、面接時の説得力が増す
これらを事前に準備しておくことで、未経験でも「基礎を理解しており、吸収力がある人材」として好印象を与えられます。
特に、財務知識とビジネス感覚をバランスよく磨いておくことが、転職成功のポイントとなります。
転職難易度と突破のポイント
M&Aコンサルタントへの転職は、専門性と高いコミュニケーション力を兼ね備える必要があるため、中途採用市場でも難易度は高めです。一方で、営業職や金融、経営企画など、数値分析や折衝経験を持つ人材はポテンシャル採用の対象となります。
転職を成功に導くための突破ポイントは以下の通りです。
- 職務経歴のなかで「成果を数値化」して伝える:営業実績や改善効果など、数値ベースで成果を示すと評価されやすい
- クライアント折衝や経営層対応の経験を強調する:顧客との信頼構築力をアピールできると即戦力として見られる
- 志望動機を「成長支援」「経営課題解決」などM&A目的に結びつけて語る:業務理解が深い印象を与えられる
- 面接での学習意欲を具体的に示す:「簿記を学習中」「M&A関連書籍を読んでいる」など、成長意識を数値や行動で伝える
- 専門エージェントを活用して対策を練る:選考傾向や非公開求人を把握し、キャリア戦略を具体化する
このように、知識よりも「どう活かせるか」「どう伝えるか」が突破のポイントです。
実績や姿勢を定量的に伝えることで、未経験でも高い評価を得やすくなります。
以下の記事では、未経験からコンサルへの転職について解説しています。ぜひ読んでみてください。
実際の転職成功事例
ここでは、会計士としての専門知識を活かし、FAS系コンサルティングファームへの転職を実現した2名の事例を紹介します。
いずれもMyVisionのサポートを受けて、未経験からM&Aアドバイザリー領域へのキャリア転換に成功しています。
1.監査法人からFAS系コンサルティングファームへ転職し、年収アップを実現
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | H・Tさん |
| 年齢・学歴 | 28歳/京都大学卒 |
| 転職前 | 監査法人(会計士) |
| 転職後 | 日系FASコンサルティングファーム/コンサルタント |
| 年収変化 | 600万円→1,000万円 |
H・Tさんは監査法人で会計監査を中心に6年勤務した後、より高い報酬と成長環境を求めて転職を決意しました。MyVisionの支援を通じて、自身の会計スキルを活かせるFAS系コンサルティングファームへの転職に成功しました。
面接では、会計士としての分析力・論理的思考力・業務改善経験を強調を意識しました。未経験分野だったM&A業務については、MyVisionによる基礎講義と模擬面接で徹底的に準備し、本番では自信を持って受け答えができたと語っています。
2.会計士経験を活かし、FAS系ファームでM&Aアドバイザリーを学びながら成長
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 氏名 | M・Kさん |
| 年齢・学歴 | 30歳/中央大学卒 |
| 転職前 | 会計事務所(会計士) |
| 転職後 | 外資系FASコンサルティングファーム/シニアコンサルタント |
| 年収変化 | 700万円→900万円 |
M・Kさんは、約8年間の会計士経験を経て、「新しい挑戦」を求めてM&A領域への転職を決意しました。MyVisionでは、会計士資格の強みを整理しながら、M&Aアドバイザリーで求められるスキルとの接点を明確化しました。
入社後は、まずバリュエーション業務を中心に担当し、今後はM&Aプロセス全体を理解することを目標にしています。
2名に共通しているのは、 「会計の専門性を軸にM&A領域へ挑戦したこと」 です。
MyVisionでは、会計士・税理士・金融出身などの未経験者でも、M&AアドバイザリーやFAS系ファームへのキャリア転換を多数支援しています。専門スキルを活かしつつ、より経営に近い立場で活躍したい方にとって、M&Aコンサルタントは大きなキャリアチャンスといえるでしょう。
まとめ
M&Aコンサルタントは、財務・法務・経営などの幅広い専門知識を駆使し、企業の成長や再編を支援するプロフェッショナルです。案件ごとに状況が異なるため、高い分析力や交渉力、そしてタフな精神力が求められますが、その分大きなやりがいと高収入が得られる職種でもあります。
未経験から挑戦する場合でも、財務・会計の基礎を身につけ、ビジネスへの関心や学習意欲を示すことでチャンスを掴むことが可能です。特に会計・金融・営業などのバックグラウンドを持つ方は、経験を活かしてスムーズにキャリアチェンジできる傾向があります。
MyVisionでは、FAS系やM&Aアドバイザリーファームなど、ハイクラス層に特化した求人を多数保有しています。
M&Aコンサルタントとしてキャリアを築きたい方は、ぜひMyVisionの転職支援をご活用ください。専門コンサルタントが、あなたの経験や希望に合った最適なキャリアプランをご提案します。








