SAPとは どこよりも丁寧な徹底解説
2024年06月24日更新
コンサルの業界研究を進めていくと、DX、IoT、ERPなどの用語が出てきますが、これらの用語について十分に理解していない方もいらっしゃるのではないでしょうか。そこで、本シリーズではコンサル業界への転職を希望されている方向けに頻出用語を解説していきます。
今回は「SAP」について説明いたします。「SAP」と言えば、多くのコンサルティングファームがソリューションとして掲げているものの、本当はよく分からないという方も多いのではないでしょうか。ここでは、SAPの概要や、SAPに強みのあるコンサルティングファームについても紹介いたします。SAPコンサルを目指すわけでなくとも、SAPは社会人としては押さえておくべきワードのため、是非最後までお読みいただければと思います。
目次
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監修者
門山 友輔
Kadoyama Yusuke
システムベンダーで経験を積んだのち、大手転職エージェントであるパソナにてIT/コンサル業界向けの転職支援に従事。半期MVP6回、年間MVP受賞、全社売上レコード更新などの実績を有する。
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SAPとは?
SAPとは、ドイツに本社があるソフトウェア会社で、代表的な製品であるERP(Enterprise Resource Planning)と呼ばれるパッケージソフトにおいては世界シェアNo.1を誇ります。ERPとは企業の経営資源となるヒト、モノ、カネ、情報を全社レベルで管理し、活用することで、経営の効率化を実現しようという考えを実現するためのシステムです。SAP ERPは大企業を主なターゲットとしており、日本はもちろん、世界中の企業で利用されています。
ERPの解説については、下記記事をお読みください。
なぜSAPが求められるのか?SAPの強み
SAPはERPパッケージにおいて世界シェアNo.1です。なぜ、多くの企業で他のERPパッケージではなく、SAPが選ばれるのか、SAPの持つ特徴や強みについて解説します。
強み①: 大企業向け
SAPは昨今では中小企業向けのラインナップも揃えていますが、古くから主に大企業(特に製造・流通業)をターゲットにした機能構成や価格体系となっています。従って、世界中の大企業への導入実績が多いです。
強み②: テンプレートが充実
SAPは、他のERPパッケージ以上にビジネステンプレートが充実しています。これにより、業務プロセスが世界スタンダードレベルに標準化されるため、業務効率化を図ることが可能です。他のパッケージであれば、個別最適化の色が強いこと、機能が乏しくGAPが出やすいことなどのデメリットがありますが、SAPはこれらの点をカバーできています。
強み③: グローバル対応
SAPは世界各国の法要件に対応しています。従って、企業グループがグローバルでシステムを統一するのにはうってつけのパッケージです。もちろん、日本のORBICや、中国の用友など、国特化型のパッケージと比べれば細かな要件で対応しきれないところもあります。しかし、基本的には世界各国で使える仕様です。このことも、SAPコンサルの需要が世界中で高い要因となっています。
強み④: 豊富な導入実績とサポート体制
SAPはERPのシェアが世界No.1であることから、多くの導入実績があります。このことから、多くのコンサルティングファームやSIerが専門のコンサルタントやエンジニアを抱えており、他のERP製品と比べて導入メソッドや体制が充実しています。安定したデリバリを可能としていることも、SAPが選ばれる理由の1つです。
昨今のSAPの市場動向について
SAPは、現行バージョンであるECC 6.0の製造元サポートが2027年に打ち切りとなる「2027年問題」があります。そのため、多くの企業では後継となるS/4 HANAへの移行に着手しています。これに伴い、SIer・コンサルティングファーム各社ではシステム移行プロジェクトの受注が急増しています。 また、2027年以降も、リミニストリート社を始めとした3rd Partyベンダによる現行バージョンでの延命保守を選んだ企業向けのアップグレード、S/4 HANA導入後の機能エンハンスメント、SAP未導入会社向けの新規導入、M&A等の企業の統廃合によるシステム切り替えなど、多くの案件需要があることが予想されます。
SAPの歴史
ここで、SAPの歴史を紐解いていきます。
SAP「世界最初のERP」の誕生
SAPは世界最初のERPです。最初のバージョンは1973年にリリースされたSAP R/1です。当時は、企業のメインフレームでの基幹業務処理が急速に広がっていった時代でした。SAP R/1はメインフレームで動作し、アセンブラ言語で記述されました。メインフレームとは、汎用コンピュータ、ホストコンピュータなどとも呼ばれるもので、当時は専用の端末からしかアクセスできませんでした。現代のように従業員1人1人にPCが割り当てられていた訳ではないため、限られた端末に対して交代で入力処理を行う必要がありました。 1979年には第二世代であるSAP R/2が発表されましたが、こちらもメインフレームで稼働するもので、日本にはまだ導入されていませんでした。
SAP ERP(第3世代):SAP R/3、SAP ECC
1992年にはクライアントサーバーシステムSAP R3を発表しました。クライアントサーバシステムとは、通信ネットワークを利用したコンピュータシステムで情報を保存したり処理を行うサーバと、入力処理を行うPC端末(クライアント)が分かれており、これらをインターネットで繋いで業務を行うことを指します。ホストコンピュータ時代とは違い、1人1人が持つPC端末から入力が可能なため、業務スピードは一気に向上しました。 SAP R/3は広範な用途を持ち、R/3はERPのグローバルスタンダードとして有名です。また、SAP R3は2004年に名称変更してSAP ECC(ERP Central Componentの略)になっています。 SAPジャパンは1992年に設立されたため、日本の企業に導入されているバージョンはSAP R3とSAP ECCで第3世代のものが多いです。
SAP ERP(第4世代):SAP S/4HANA
2015年にはSAP R/3及びSAP ECCの後継製品として第4世代のERP「SAP S/4HANA」を発表し、現在に至っています。SAP S/4HANAについては後で詳しく紹介しますが、最新のテクノロジーを採り入れることで、アーキテクチャや性能はこれまでのSAPとは大きく異なったものとなっています。
最新バージョン「S/4 HANA」の特徴
特徴①: インメモリデータベース採用による処理の高速化
SAP S/4HANAは、コア技術としてインメモリデータベースである「SAP HANA」を採用しています。インメモリデータべースとは、メインメモリ(主記憶装置:RAM)上にデータを展開し、処理を完結させるデータベースの総称です。インメモリ上のデータは、ストレージ内のデータよりも読み書きを高速に行うことができます。インメモリデータベースでは、変更・削除・追加などのデータ処理をすべてメインメモリ上で完結できるため、オンディスクデータベース(SSDやHDDで読み書きを行う従来型データベース)に比べ、数百~数万倍の処理速度を実現できます。SAP社は、これを「ゼロレスポンスタイム」と呼称しています。
特徴②: リアルタイム分析・レポーティング
従来のSAP ERPでは、経営戦略に結びつくような情報を取得する仕組みを、別システムに構築したDWH(データウェアハウス)等で実現していました。そのため、ERPからDWHへデータが連携されるのにタイムラグが生じたり、データの不整合が起きる懸念があるといった課題がありました。SAP S/4HANAでは同一プラットフォームで分析とレポーティングを行うことが可能になり、ビジネスに欠かせない情報を迅速に取得できます。
特徴③: クラウド化によるコスト削減
SAP S/4HANAはオンプレミスやクラウド(プライベートクラウドとパブリッククラウド)の運用プラットフォームを自由に選択することができます。オンプレミスの場合、自社のデータセンターでサーバやアプリケーションを構築する必要があります。 一方、クラウドの場合は自社でデータセンターを用意することなく、SAP社のサーバ上にあるERPにアクセスして利用できます。これにより、データセンターやサーバの運用コストを削減できます。もちろん、クラウドの場合はアップグレードが必須であったり、外部システムとのI/Fに制約があったりと様々な制約もあるため、どちらが良いとは一概には言えませんが、各社の予算やニーズに合わせて選択できるというのが最大のメリットと言えるでしょう。
特徴④: Fioriによるユーザの操作性向上
SAP S/4HANAでは、ECC6.0までのSAP GUIから「SAP Fiori」へと標準ユーザーインターフェースが変更されています。SAP Fioriが標準採用されたことで、タブレットやモバイル端末からもリアルタイムに情報へアクセスすることができるようになりました。また、画面配置や構成もWebサイトのように見やすくなっているため、ユーザにとっての操作性が向上しています。
特徴⑤: フロントシステムとの連携によるユーザ利便性向上
従来のSAPでは、受注や購買といった取引情報をSAPの画面から入力する必要がありました。しかし、S/4 HANAでは、経費精算システムであるConcurや購買・収支管理システムであるAribaといった、フロントシステムとのリアルタイム連携がしやすくなりました。そのため、エンドユーザのデータ入力負荷が軽減され、利便性が向上しています。
SAPのモジュール構成
モジュールとは、特定の業務に関わる機能をひとまとめにしたプログラムの集合体のことを指します。大きく分けて4つにカテゴライズされ、ロジスティクス系(販売、在庫管理、生産)、人事系(人事、給与)、会計系(財務、管理)、その他に分けられます。これらモジュールは互いに連携して、SAP ERPの目的である「情報の一元化による業務効率化」を達成します。 SAP社のモジュールは合計20以上のモジュールが存在しており、企業は自社に合わせてモジュールを選び利用しています。主なモジュールの一覧は以下の通りです。
この他にも、電力会社向けに特化したモジュールなど、業界特化型のモジュールもあり、細かいものを含めると多岐に渡ります。
SAP導入に強みのあるコンサルティングファーム
本節では、SAP導入に強みのあるコンサルティングファームをご紹介します。一部、SIerも含まれますが、SAPの導入コンサルティングに強みがあるため、こちらでご紹介します。
アクセンチュア
世界最大のコンサルティングファームで、SAPの導入コンサルティングにおいては豊富な実績があります。アクセンチュアがSAP導入に強みがあるとされている理由は以下の通りです。 ①世界中に拠点があり、グローバルロールアウトに強い ②技術部隊を擁しており、技術的難易度の高い要件に対応できる ③BPOに強みがあり、運用保守のアウトソーシング含めて対応できる
アビームコンサルティング
日本発のコンサルティングファームで、現在はNECのグループ会社です。日本で最も多くのSAP認定コンサルタントを擁しており、SAP導入に強いファームと言えます。主に、日系企業のグローバルロールアウトに強みがあり、テンプレートや方法論も充実していることから、コンサルタントの属人スキルに依存せず安定した品質でデリバリができると定評があります。
デロイトトーマツコンサルティング
Big4と呼ばれる監査法人系のコンサルティングファームで、SAPの導入実績も豊富です。近年はITコンサルティングやDXコンサルティングに注力しており、ERP導入部隊の規模も拡大傾向にあります。
NTTデータグローバルソリューションズ
NTTデータグローバルソリューションズは、NTTデータグループのSAP事業の中核企業です。NTTデータグループがSAPソリューションの展開を推進するにあたり、2012年に設立されました。
特に日系グローバル企業に対して、SAP Business-all-in-oneテンプレートの導入、オフショアリソースの活用、グローバルロールアウト、ホスティング、AMOといったSAPソリューションの展開を得意としています。 また、NTTデータグループのSAP Global One Team(5,000+のヒューマンリソース、世界35ヵ国・地域、136都市をカバー)の一員として、海外拠点と連携しながらプロジェクトを進めているため、グローバル展開にも強みがあります。
ビジネスエンジニアリング(旧東洋ビジネスエンジニアリング)
ビジネスエンジニアリング(略称: B-EN-G、ビーエンジ)は、大手・中堅企業向けのERP/SCM/CRMパッケージ製品を扱うSIerです。プラントエンジニアリング御三家である、東洋エンジニアリングが分社化して設立されました。 日本初のSAPパートナーであり、SAPの導入においては豊富なノウハウと技術力を有しています。
SAPコンサルになるには?
SAPコンサルタントになるためには、SAPを扱うコンサルティングファームやSIerに入社するのが近道となります。昨今、「2027年問題」による人材不足から、各社の採用門戸は広がっており、未経験からでも転職できる可能性が高くなっています。 SAPコンサルタントは、SAP導入プロジェクトにおいて構想策定から稼働後支援までの全てのフェーズを一貫して担当することになります。従って、担当モジュールの製品知識・業務知識・ITスキル、論理的思考力、高いコミュニケーション能力、チームマネジメント力など、高度かつ幅広いスキルや経験が求められます。これらの経験やスキルをアピールできれば、採用される可能性は十分に高まります。詳しくは、下記の記事をお読みいただければと思います。
まとめ
本日は、SAPについて解説しました。SAPは多くの企業で使われており、SAPコンサルタントならず、ビジネスコンサルタントや戦略コンサルタントなど、あらゆるコンサルタントが現場で耳にする言葉です。直接SAPの案件を担当する訳ではなくとも、SAPはIT戦略立案において考慮すべきシステムであったり、業務改革の対象となる業務プロセスで使われていたりと、様々な現場で目にすることとなるでしょう。今となっては大手企業の業務プロセスにおいてSAPは切っても切り離せないと言えるため、SAPがどういうものかを知っておくことは、重要ではないでしょうか。この記事を通して、少しでもSAPへの理解を深めていただければと思います。